
歯磨きは、むし歯や歯周病を防ぐために欠かせない習慣として、毎日続けている方は多いでしょう。
だからこそ、国民の口内環境が年々よくなってきている傾向があるのですが、同時に、お口の状態が全身の健康に影響を及ぼしていることもわかってきています。
専門機関の研究では、歯磨き習慣と全身疾患の発症や進行との関連があるといわれています。
なかでも「肺炎」は重症化することもあるため、特にシニア世代の方は予防や早めの受診について意識しておくことが大切です。
歯磨きは、お口の中だけの問題と思われがちですが、日々の健康管理の一つとして重要と考えられるようになってきました。
そこで今回は、歯磨きと全身の健康の関係について、わかりやすく解説します。

三宅 言輝 院長
経歴2014
明海大学歯学部 卒業
2014-2015
明海大学歯学部 臨床研修医
2015-2021
明海大学歯学部 口腔外科第二講座 医局医
2019-2023
医療法人みやけ歯科医科ケア みやけ歯科クリニック 非常勤医
2021-2023
医療法人社団正昌会 山口歯科医院 常勤医
2023.9.1
大泉学園みやけ歯科 開院
医院名:大泉学園みやけ歯科
所在地: 〒178-0063
東京都練馬区東大泉5丁目40-40
歯磨きの頻度と肺炎リスクに関係がある?

歯磨きの習慣と肺炎の発症との関連については、国内の大規模調査でも報告されています。
この研究では、65歳以上の約1万7000人を対象に、歯磨きの回数と過去1年間の肺炎経験との関係が調べられました。
年齢や生活習慣、既往歴などの影響も考慮した上で分析されています。
その結果、歯磨きの回数が少ない方は、1日3回以上歯磨きをしている方と比べて、肺炎を経験している割合が高く、特に肺炎球菌ワクチン未接種の方では、肺炎経験の割合が約1.57倍高いという結果が示されました。
この結果は、「歯磨きをしないと必ず肺炎になる」という意味ではありません。
歯磨きの回数が少ないと、お口の中の細菌が肺炎の発症に関係する可能性があると考えられているということです。
同時に、歯磨きの回数を増やすことで、肺炎の予防につながるといわれています。
今後さらなる長期的な検証が必要とはいえ、見逃せない結果です。
参照:東京医科歯科大学 Press Release|歯みがきが一部の高齢者の肺炎発症に影響する可能性‐1日に1回以下しか歯をみがかない人は、1.57倍肺炎の経験が高かった‐ >
入れ歯のケアも全身の健康に関係する?

シニア世代の方では、入れ歯を使用されている方も多く、歯磨きとあわせて入れ歯のケアも大切です。
入れ歯は取り外しができるため清掃しやすい一方で、適切にお手入れされていない場合、細菌が付着しやすい特徴があります。
歯だけでなく入れ歯も含めてお口全体の環境を整えることが、健康管理の一つとして考えられています。
「入れ歯の清掃状態」と「過去1年間の肺炎の発症」との関連については、65歳以上の約7万人の方を対象にした調査研究でつぎのように報告されています。
●入れ歯を毎日清掃していない方の肺炎経験の割合(清掃している方に比べて)
▪ 65歳以上の場合:約1.3倍
▪ 75歳以上の場合:約1.58倍
シニア世代の方や麻痺の経験がある方では、食べものや唾液が本来入るべき食道ではなく、気管へ入り込んでしまう「誤嚥(ごえん)」が起こりやすい状態になっていることがあります。
誤嚥が起こると、お口の中の細菌が気管から肺へ入り込みやすくなるのです。
その結果、肺の中で炎症が起こり、肺炎につながる可能性があります。
一方で、入れ歯の清掃を日常的に行うことで、肺炎の発症リスクを抑えられる可能性も示されています。
そのため、歯磨きと同様に入れ歯のお手入れもしっかり行うようにするとよいでしょう。
参照:東北大学 Press Release|入れ歯の手入れを毎日しないと 過去1年間の肺炎のリスクが1.3倍高かった‐世界で初めての一般高齢者における研究‐ >
お口の中は細菌が増えやすい環境です

なぜ、歯磨きや入れ歯のお手入れが十分でないと、肺炎リスクが高くなるのでしょうか。
それは、もともとお口の中には多くの細菌が存在しているからです。
磨き残しに含まれる糖をエサにして増殖した細菌は、歯の表面や入れ歯にネバネバした歯垢(プラーク)やバイオフィルムを形成します。
歯垢(プラーク)は細菌のかたまりで、わずか1mgの中にも約10億個の細菌が含まれているといわれています。
参照:厚生労働省|健康日本21アクション支援システム ~健康づくりサポートネット~|プラーク / 歯垢(ぷらーく) >
「歯と歯の間」や「歯と歯ぐきの境目」には汚れが残りやすく、歯磨きが不足しがちな状態では細菌が増えやすくなります。
特に入れ歯は、長時間の装着により、細菌が付着・定着しやすい口内環境になりやすいと考えられています。
細菌が増殖し、口腔内の適切な細菌バランスが崩れると、カンジダなどの真菌(カビの一種)が増えることもあり、こうした状態が続くと全身の健康にも影響する可能性があるので、丁寧なブラッシングを心がけ、必要に応じて歯科医院で相談しましょう。
お口の状態はさまざまな全身の不調と関係が指摘されています

お口の中の状態は、肺炎だけでなく、身体のさまざまな不調と関係する可能性が指摘されています。
お口の状態と関連が指摘されているおもな病気や症状
たとえば、次のような病気や症状との関連が研究されています。
▪ 糖尿病
▪ 心血管疾患(動脈硬化・心筋梗塞・狭心症など)
▪ 脳血管疾患(脳梗塞など)
▪ 呼吸器疾患(肺炎・誤嚥性肺炎など)
▪ 低栄養・食欲低下
▪ フレイル(虚弱)
▪ 認知機能の低下
▪ 早産・低出生体重児(出産)
▪ 口臭・お口の不快感
▪ 全身のだるさや体調不良
これらは直接の原因と断定されるものではありませんが、お口の環境と身体の状態が互いに関係している可能性があると考えられています。
歯磨き不足が全身の不調につながるしくみ
歯磨きが不十分な状態が続くと、お口の中で細菌が増えやすくなります。
その影響は、お口の中だけでなく、身体のさまざまな部分に広がる可能性があります。
| 歯磨き不足 → 細菌の増加 → 気道へ → 肺炎・誤嚥性肺炎 |
| 歯磨き不足 → 歯ぐきの炎症 → 血流へ → 動脈硬化・心血管疾患 |
| 歯磨き不足 → 慢性的な炎症 → 代謝への影響 → 糖尿病の進行 |
| 歯磨き不足 → お口の不調 → かみにくさ → 食事量の低下 → 低栄養・フレイル |
このように、歯磨き不足はお口の中だけでなく、全身の健康にも関係する可能性があります。
歯磨き不足を防ぐための毎日のケア
歯磨き不足を防ぐためには、回数だけでなく「磨き方」や「使用するアイテムの組み合わせ」を見直すことも大切です。
日々の少しの工夫で、汚れの残りやすさやお口の状態は変わります。
歯ブラシの基本的な使い方

歯磨きでは、歯と歯ぐきの境目に毛先を当てて、小刻みに動かすことが基本です。
力を入れすぎず、軽い力で丁寧に磨くことで、汚れを落としやすくなります。
▪ 歯と歯ぐきの境目に毛先を当てる
▪ 奥歯は口を少し閉じて角度を変えながら磨く
▪ 前歯の裏側は歯ブラシを縦にして当てる
▪ 力を入れすぎず、小さく動かす
また、就寝前は特に丁寧に磨くことが大切です。
寝ている間は細菌が増えやすくなるため、1日の汚れをしっかり落としておくことを意識してブラッシングするとよいでしょう。
歯ブラシだけでは汚れが残りやすい部分があります

歯と歯の間は、歯ブラシだけでは汚れが残りやすい部分です。
そのままにしておくと、歯垢がたまりやすく、むし歯や歯ぐきの炎症につながることがあります。
そのため、デンタルフロスや歯間ブラシなどの歯磨き補助アイテム(補助清掃用具)を取り入れることで、磨き残しの減少につながります。
▪ 歯と歯のすき間が狭いところ→ デンタルフロス
▪ すき間が広いところ→ 歯間ブラシ
このようにアイテムを使いわけて、磨き残しを減らしましょう。
少なくても1日1回以上、デンタルフロスや歯間ブラシを取り入れることで、ケアの質が変わります。
歯科の定期検診では、磨き残しやすい場所のブラッシングのコツや、お一人お一人に合ったアイテムなどのアドバイスを行っています。
入れ歯のお手入れも毎日の歯磨きの一部です

入れ歯のケアが不十分な状態が続くと、お口の中の細菌が増えやすくなり、全身の不調につながる可能性があるといわれています。
そのため、入れ歯のお手入れも特別なものとして分けて考えるのではなく、毎日の歯磨きの一部として行うことが推奨されています。
入れ歯は一見きれいに思えても、じつは細菌が付着していることが多く、ケアが不十分な状態が続くと、歯ぐきの炎症やお口のトラブルにつながることがあるのです。
ご自身の歯を磨く流れの中で、
▪ 食後に外して流水で汚れを洗い流す
▪ 専用ブラシでやさしくこすり洗いをする
▪ 就寝時は外して洗浄剤につける
といった入れ歯のお手入れも習慣にしていきましょう。
歯科医院でのクリーニングを併用することが大切です

毎日の歯磨きを丁寧に行っていても、歯ブラシでは取りきれない汚れが残ることがあります。
こうした汚れは時間が経つとかたくなって歯石になり、セルフケアでは取り除くことが難しくなります。
そのため、歯科でのクリーニングを定期的に取り入れることで、お口の環境を整えましょう。
毎日の丁寧な歯磨きと歯科での専門的なクリーニングを組み合わせることが、歯磨き不足を防ぐポイントです。
歯磨きと歯科医院でのケアでお口の健康を守りましょう

歯磨き不足が続くと、お口の中の細菌が増えやすくなり、肺炎などの全身の不調と関係する可能性があります。
そのため、毎日の歯磨きで汚れを落とすことに加えて、歯科医院でのクリーニングを取り入れながら、お口の状態を整えていくことが大切です。
セルフケアと専門的なケアを組み合わせることで、汚れがたまりにくい状態を維持しやすくなります。
歯ぐきの炎症や汚れの蓄積など、お口の中でトラブルが起き始めているサインである可能性があります。歯科医院に相談する目安です。
また、特に目立った症状がなくても、定期的に歯科医院でクリーニングを受け、お口の状態を確認していくことが大切です。
日々の歯磨きや入れ歯のお手入れについて気になることがあれば、どのようなことでも気軽にご相談ください。








